高校時代、死んで白木の棺桶の中に横たわったブロンズ色の彼女の夢をみた

高校時代、とても気になっていた女の子の夢を見ることを楽しみにしていました。普通の夢ではなく、彼女が死んでしまって棺桶に入っている夢です。しかも、その遺体はブロンズ像になっているのです。そんな彼女をじっと覗いているのです。

 

その子はTさんと言って、小柄でタレ目で頬っぺたはしもぶくれでしたが、つんとバストが上を向いていて、小走りに走る姿がウサギのようにピョンピョンと跳んでいるようでした。

 

彼女の存在に気づいたのは、2年生の時で、クラスで一番の美人で背が高くて色白でハーフのように彫りの深いマドンナと、一緒に廊下を歩いた姿を目撃したのです。

 

並んだ姿はデコボコのコンビだったのですが、私は思わずマドンナではなく、Tさんに見入ってしまいました。マドンナは意外にも気さくで、そんな私を見て、「同じ中学出身なの」と教えてくれました。

 

その場を別れてから、私はTさんと会いたくて、昼休みにはマドンナの後を見つからないように付け回しました。そんなある放課後、ラグビー部に所属する友人の練習をグランドで見ていました。スクラムを組んでつぶされる小柄な友人をはやし立ててからかっていました。

 

泥まみれになる部員たちの姿に見飽きて帰宅しようとグランドを後にした時、校舎の方から吹奏楽部の練習の音色が聴こえてきました。ふと、そちらに目をやると、校舎の外に出て思い思いの楽器の音を出している部員の中に、銀色の横笛を吹くTさんを見つけたのです。

 

その横笛はフルートよりも短い、ピッコロという楽器で彼女の容姿に合った小さなサイズでした。吹くたびに、口元が唾液で濡れるのか、絶えずハンカチで口を拭っていました。

 

その日より、私は放課後には吹奏楽部の楽器の音色が聴こえる日には、グランドのラグビー部の様子を見る振りをしながら、Tさんを見つけようとしていました。そんなことを繰り返すうちに、夢の中に彼女が現われるようになったのです。

 

いつも死んでいて、生きていた試しはありませんでした。死んでいる彼女は、夢の中ではとても美しくてこの世のものではない有様でした。私は白木の棺桶の中に横たわったブロンズの彼女を見つめながら、頬を何度も何度も触りました。

 

学校で彼女の演奏を聴くと、その夜、夢に現れるのです。そして頬に触れる…何度が繰り返すと、今度は、校外で彼女と出会えたのです。

 

それは、私の最寄り駅の自転車置き場でした。私が自転車の鍵を開けていると、後ろからTさんが現われて、少し先の自転車に鞄を乗せて立ち去りました。その立ち漕ぎをする姿に見とれていたのですが、私の家とは反対側に去って行ったのです。その日から私は、彼女と出会った時間に自転車置き場に居ることができるように、下校時刻を調整するようになりました。

 

しかし、在学中で出会えたのはその一度きりでした。同じ最寄り駅なのに、通学の電車でも会えませんでした。せめて夢で逢うために、私は放課後、吹奏楽部の練習の音色を聞きに行ったのです。

 

部活は3年になると引退なので、2年生の文化祭での定期演奏会が彼女の最後の活動でした。私はクラシックには全く興味がなかったのですが、彼女の生きた姿を見に行きました。Tさんは前列で椅子に腰かけて、ピッコロとフルートを交互に吹いていました。曲が終わるたびに、口元を拭っていたことを昨日のことのように思い出します。

 

引退してから、放課後の部活で彼女の音色は聴けなくなり、それに合わせて棺桶に横たわっている夢も見なくなりました。私も次第に、受験勉強に精を出すことになりました。

 

3年生になりクラス替えがあり、Tさんと一緒になることを期待したのですが叶いませんでした。落胆している私の前を、別のクラスになったマドンナが廊下を歩いていました。相変わらず美しいなぁと思っていると、その心の声が聞こえたのか、彼女はチラリとこちらを見つめました。

 

私はドキッとして目を伏せると、ウサギのようにピョンョピンと跳びながらTさんがやってきて、タレ目の満面の笑みでマドンナの腕をつかみました。そして、2人は相変わらずのデコボコのコンビで廊下を去って行ったのでした。それ以来、私は彼女と現実でも夢でも会うことはありませんでした。

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